JSEM 日本臨床救急医学会

学校での心肺蘇生教育の普及並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言

学校での心肺蘇生教育の普及並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言

文部科学大臣への提言提出及び記者会見のご報告

 日本臨床救急医学会ならびに日本循環器学会は、2015年9月30日に「学校での心肺蘇生教育の普及並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言」を、下村博文 文部科学大臣に提出し、その後文部科学省記者会にて記者会見を実施いたしました。

 大臣には30分程度お時間を頂戴し、羽生田 俊先生(参議院議員)のご同席の元、坂本 哲也先生(日本臨床救急医学会 代表理事)・石見 拓先生(日本循環器学会 AED検討委員会副委員長)・桐淵 博先生(埼玉大学教授 / 前さいたま市教育長)・桐田 寿子様(桐田明日香さんのお母様)と面談をさせていただき、終了後記者会見を行っております。

下村大臣への提言提出 文部科学省記者会における記者会見
下村大臣への提言提出文部科学省記者会における記者会見

学校での心肺蘇生教育の普及並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言

平成27年9月30日

文部科学大臣
下村 博文  殿

一般社団法人 日本臨床救急医学会
代表理事  坂本 哲也
一般社団法人 日本循環器学会
代表理事  小川 久雄

学校での心肺蘇生教育の普及
並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言

拝啓
 時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、日本臨床救急医学会は、医師・看護師・救急隊員・薬剤師・診療放射線技師などを会員として、地域にのぞまれる救急医療の実現にむけて活動している一般社団法人です。当学会は、救命率向上のためには学校での心肺蘇生教育の普及が不可欠であると考え、平成20年1月に「学校へのBLS(一次救命処置)教育導入に関する検討委員会」を立ち上げ、「学校で行う心肺蘇生講習の指導コンセンサス」を作成し、平成24年には貴省に対し、『学校での心肺蘇生教育の普及に向けての提言』(参考資料(1))を提出させていただきました。
 また、日本循環器学会は、循環器科の医師を会員の中心とし、循環器学の研究・振興・専門性の向上・社会への普及啓発及び社会還元を目的として活動している一般社団法人です。当学会は、平成13年3月に「AED検討委員会」を立ち上げ、平成27年1月に『学校での心臓突然死ゼロを目指して』(参考資料(2))の提言を致しました。

 突然の心停止から救いうる命を救うためには、国として心肺蘇生・AEDの知識と技能を体系的に普及する必要があり、学校での心肺蘇生教育はその柱となるものです。同時に、児童生徒に対し、災害時などに求められる互助の精神と一人一人の命を大事にする心、自己有用感を育成する絶好の機会でもあります。また、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を控えて、我が国の社会がグローバル化に一層適切に対応していくためにも、生命の重みを皮膚感覚で認識したうえで、隣人が心停止に陥った時、勇気をもって行動できる人材を育成する必要があります。

 わが国では、2004年に市民によるAEDの使用が認められて以降、急速にその設置が進み、AEDの使用によって救命される事例も数多く報告されるようになってきました。しかしながら、未だなお、毎年7万人に及ぶ方が心臓突然死で亡くなっており、学校でも毎年100名程度の児童生徒の心停止が発生しています。その中には、2011年9月のさいたま市立小学校6年生の桐田明日香さんの事故のように、AEDが活用されず救命できなかった事例も複数報告されています(参考資料(3))。児童生徒、教職員に対する心肺蘇生とAEDに関する教育を徹底するとともに、学校での危機管理体制を拡充し、児童生徒の命を守るための安全な学校環境を構築することは喫緊の課題となっています。

 すでに、学校における心肺蘇生教育の重要性についての認識は広がりつつあり、中学校学習指導要領保健体育科でも盛り込まれておりますが、AEDについては「必要に応じて触れる」といった扱いであり、小学校からの教育を含め、知識だけでなく確実な心肺蘇生の実施、AEDの使用を目標とする教育体系は確立しているとは言えません。また、突然の心停止発生に備えた学校の安全管理体制を強化するためには、緊急事態への教職員の対応能力を高めることが必須ですが、現職教員への研修や教員養成課程での危機管理教育はまだまだ不十分であり改善の余地があると考えます。 この現状を打開するために、心肺蘇生の普及に関わる学術団体及び消防機関等の関係機関と学校との連携に加えて、文部科学省から学校および地方公共団体の教育行政への働き掛けにより、学校での心肺蘇生教育の充実、及び突然の心停止発生に対応しうる学校安全・危機管理体制の強化を図ることが必要であると考え、他の組織・団体とともに提言をさせていただきます。  何卒ご尽力を賜わりますよう、お願い申し上げます。

敬具

提言の共同提案団体

(五十音順)

主唱: 一般社団法人 日本臨床救急医学会、一般社団法人 日本循環器学会

賛同: 特定非営利活動法人 愛知万博記念 災害・救急医療研究会、 特定非営利活動法人 大阪ライフサポート協会、一般財団法人 救急振興財団、 全国学校安全教育研究会、瀧本ゼミ政策分析パートAEDプロジェクト、 公益社団法人 日本医師会、公益財団法人 日本学校保健会、一般社団法人 日本救急医学会、 一般財団法人 日本救急医療財団、一般社団法人 日本救急看護学会、 特定非営利活動法人 日本救急蘇生普及協会、一般社団法人 日本小児救急医学会、 特定非営利活動法人 日本小児循環器学会、公益財団法人 日本心臓財団、日本赤十字社、 一般社団法人 日本不整脈心電学会、特定非営利活動法人 日本防災士会、 特定非営利活動法人 日本防災士機構、特定非営利活動法人 日本ライフセービング協会、 減らせ突然死実行委員会

以上

学校での心肺蘇生教育の普及並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言

目的:全ての国民が心肺蘇生とAEDに関する知識と技能を習得し、突然の心停止から救いうる命を救うことのできる安心・安全な社会を構築すること。
目標:(1) 全ての子供たちが実技を伴う心肺蘇生の教育を受け、高等学校卒業時に、確実な心肺蘇生・AEDに関する知識と技能を習得することのできる教育体系の構築
   (2) 人材育成、AED等の資器材・危機管理マニュアル・保健安全計画の整備等を通じた学校での突然死を防ぐ安全な環境の整備
1. 小学校、中学校、高等学校において、心肺蘇生とAEDについて実技を交えて繰り返し学べるようにすること。高等学校卒業時に全ての生徒が心肺蘇生とAEDに関する知識と技能を確実に身に付けることのできる教育体系を構築すること。そのために学習指導要領における心肺蘇生・AEDに関する実技をともなった指導体系の位置づけを強化すること。
2. 学校における突然死を撲滅すべく、別添1を参考にして教職員への研修、児童生徒への心肺蘇生・AEDに関する教育の指導、蘇生人形やAED等資器材の配備、危機管理マニュアル・保健安全計画の整備について、計画的に拡充し、整備状況を定期的に評価すること。
3. 大学の教職課程において、全学生を対象に心肺蘇生・AEDに関する実技研修を必修化すること。体育教員、養護教員の教職課程では心肺蘇生・AEDに関する「指導プログラム」の必修化を図り、心肺蘇生・AEDを児童生徒や教職員等に指導できる教員を養成すること。
4. 現職教員の免許更新時の講習に心肺蘇生・AEDに関する研修を導入し、全ての教員が心肺蘇生とAEDに関する知識と技能を維持することのできる環境を整えること。
5. 別添2を参考の上、関係機関の協力を得て、学校毎に心肺蘇生・AEDに関する教育・研修、管理・運営のコアとなる人材を複数配置すること。
6. 心肺蘇生の授業実施等に必要な予算の措置を講じること。

学校での心肺蘇生教育の普及並びに危機管理体制の整備によって期待される効果

1. 将来日本を背負って立つ人材の全てが心肺蘇生・AEDを含む応急手当てを行うことができるようになり、心停止例の救命率向上、救急・災害時の地域の救急対応能力の向上につながって、我が国に一層安心・安全な社会が実現する。
2. 命を助ける行動を学ぶことを通じて、子供たちに人と協力をして応急手当をする互助の精神、命を大事にする心の醸成、人を思いやる互恵の心を育むことができる。
3. 学校で起こる突然死をゼロとするべく具体的なアクションプランを立てることで、学校の安全管理体制強化につながり、多くの子供の命を守ることができる。
4. 心肺蘇生とAEDについて学び、心臓突然死が身近に存在することを知ることによって健康に関する関心を高め、身近な学校保健安全環境への働きかけを通じて主体的、共同的に健康課題を解決することを学ぶ機会となる。
5. AEDという医療機器が社会に広がり利用可能になったこととその意義を学ぶことで、医療への市民の関わりという観点から、現代的な健康課題を学ぶ機会となる。
6. スポーツシーンでの心臓突然死のリスクと対処法を学ぶことにより、適切な予防および対応の準備によって、各人のリスクに応じてスポーツを楽しむことを知るとともに、心身の健康保持増進とスポーツとの関連を学ぶ機会になる。

提出した提言等の資料ダウンロード

【提出した提言等の資料は下記よりダウンロードいただけます】
提言本文
参考資料(1) 学校での心肺蘇生教育の普及に向けての提言(平成24年4月10日提出) [日本臨床救急医学会]
参考資料(2) 学校での心臓突然死ゼロを目指して(平成27年1月公表) [日本循環器学会]
別添(1) 体育活動時等における危機管理体制整備チェックリスト(平成27年8月28日作成) [日本臨床救急医学会]
別添(2) 学校における心肺蘇生教育・研修体制についての提言(平成27年9月30日) [日本臨床救急医学会]
別添(3) 学校での突然死 [日本臨床救急医学会]
説明資料(1) 提言説明資料 [石見 拓先生]
説明資料(2) 子供たちの命を守るために~ASUKAモデルへの想い~ [桐淵 博先生]
「体育活動時等における事故対応テキスト:ASUKAモデル」 [さいたま市]

以上